
タッパーに入れられたビリヤニが
二人の男を外の世界に連れ出した
ダウン症のある青年アハーンは、愛情深い両親と共にインドの大都市ムンバイに暮らしている。何不自由のない日々を過ごすアハーンであったが、周囲の目を気にする両親の「配慮」によって家に縛り付けられた彼は「自立したい」「仕事を見つけたい」「素敵な女性と結婚したい」という切実な思いを募らせていた。一方、気むずかし屋の中年オジーは、マイルールの押しつけと潔癖な性格が過ぎて妻のアヌに見限られ、一人家に取り残されていた。そんな折、アヌと親交があるアハーンはオジーの家を訪れる。オジーは妻の手料理にありつくためにアハーンを利用することを思いつき、自由な外出を願うアハーンとの間の奇妙な協力関係が始まることとなるのだが……。

ムンバイ出身ニキル・ペールワーニー監督のデビュー作となった本作は「ヒンディー映画初のダウン症当事者がメインキャストの作品」にして、サバイバル・コメディーと呼べる日常譚である。障がい者の抱える困難と、家族や支援者が抱える不安、周囲の無理解と社会の理不尽を描きたいと考えていたニキルは、本作の草案を抱え、障がい者のためデイケア施設を巡りメインキャラクターのリサーチをしていた。そんなある日、のちにタイトルロールを担うことになる、映画俳優を夢見る青年アブリ・ママジと出会う。脚本も手がけたニキルは当初、当事者をキャスティングしようと考えていたわけではなかったし、それが可能だとも思っていなかった。ただ、ランチをしたり、ドライブをしたりして、二人きりで時間を過ごし、映画への情熱を共有するうちに、ニキルはこの映画の核になる問いを自身にも投げかけずにはいられなくなった。誰が「彼には無理だ」って決めつけられるんだろう、挑戦させもせずに? 監督自身の眼差しと二人の関係性の移ろいが、ムンバイの日常をバックにスクリーンに映し出される。
アブリ・ママジ(アハーン)
ムンバイの特別支援施設を見学に訪れた監督ニキル・ペールワーニーと出会い、俳優の夢を訴える。念願叶って、本作で俳優デビュー。インタビューで印象的だった言葉「ニキル(監督)はいい人、でももう終わったこと」は、アハーンの今を生きるキャラクターとどこか通ずる。本作出演前は、カフェで週5日働いていたが、演じることに目覚めた今、カフェ勤務は週1日になり母親のサキナさんをやきもきさせている。

アリフ・ザカーリア(オジー)
もう一人の主役、強迫性障害で気むずかし屋オジーを演じる。テレビから映画、舞台(ミュージカル)まで幅広く活躍し、ミュージカル「ボリウッドの商人」のワールドツアーに参加。映画Darmiyaan、Hero、Asambhav、Dance Like a Man、そして物議を呼んだ問題作Nanak Shah Fakir でも主演を務めた。日本では『WAR ウォー!!』のビシュワース博士として覚えている人も多い(らしい)。

ニハリカ・シン(アヌ)
アハーンの良き理解者でオジーの妻アヌを演じたニハリカ・シンは、ミス・アース・インディアに2005年に選ばれキャリアをスタートさせたが、出演作品が非公開となるなど不遇の時を過ごす。2012年に公開されカンヌの「ある視点」賞の候補作となったMissLovely に準主演として出演し頭角を現す。近年は監督・プロデューサーとして活躍。

プラビタ・ボールタークル(オネラ)
アハーンの意中の人オネラ(ヴァニラ)を演じたのはプラビタ・ボルタクール。音楽活動も行い、作中のアハーンのテーマソングを歌う。

シルパー・メヘター(ガヤトリ)
息子(アハーン)の希望を叶えたい、外出のあと押しもしたいと願うものの、夫の意向に異を唱えられない母を演じる。著明大作『家族の四季 愛すれど遠く離れて』(2001)にも出演。

カイザード・コートワール(ランジット)
アハーンとの距離感が掴めずにいる父を演じ、作品にリアリティを与えている。プロデューサー、映画監督、デザイナーとマルチに活躍。オハイオ州立大学で教鞭を執り、舞台・メディアスタディ・映画の授業を受け持った。本作の役柄とは裏腹に、女性のエンパワーメント運動にも長くかかわってきた。

ハレーシュ・ラーウト(ハリ)
ちょっぴりお調子者の使用人かつアハーンのケアテイカー役のハリを演じた。作中でもアハーンの良き理解者だが、撮影期間中に、アハーン役のアブリが最も親しくなったのもラーウトだったとか(アブリの母談)。

ラジト・カプール(精神科医・シッピ)
親オジーの強迫性障がいに暴露療法を施す精神科医。この役を演じたカプールは、映画と舞台でコメディーからドラマまで幅広く活躍。
The Making of the Mahatma でNational Film Awards of India(ナショナル・フィルム・アワード)主演男優賞を受賞。

ほぼ一人出版社がインド映画配給に至るまで
生活の医療株式会社は、ほぼ一人出版社のまま今年で設立10年になった。定期刊行物があるでなし、もともとスローペース版元の名を擅にしていたが、このところ輪を掛けて出版ペースが落ちている。でも安心して欲しい、これは〈耳タコ〉の出版不況の話ではない。
実は、昨年から『アハーン』(原題:Ahaan)というインド映画の配給に奔走している。こんな作品だ……。[続きは、版元ドットコム(版元日誌)へ。]
クラウドファンディング
2024年にクラウドファンディングを実施・達成、劇場公開へのご支援いただきました。ありがとうございました。
